きぬえの「本は読みよう」第3回
最近、必要があって「女性と高等養育」をテーマにした学術書を読んだ。ヨーロッパ諸国と日本を舞台に、19世紀半ばから20世紀前半にかけて、女性が高等教育に進出した歴史的経緯を捉えた論文集だ。それらに触発されて、直観的に2冊の本が私の頭の中に浮かんだ。
- 作者: ヴァージニアウルフ,Virginia Woolf,出淵敬子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2006/08/11
- メディア: 単行本
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ファシズムに抗し、戦争を未然に防ぐために女性は何ができるかを語った本書で、戦争を男性的論理がもたらした暴力だとみるウルフの高等教育論が冴えている。女性にも大学教育をと要求した時代に、ウルフは、女性が男性並みの高等教育に参加することは戦争を支えるようなものだと述べ、かといって、従来の良妻賢母教育でもなく、必要なのは、女性が経済的に自立して自分の意見を持ち、社会に影響力を及ぼすことのできる新しい高等教育だと説いたのである。まさか今日では、女性ならば戦争に加担しないなどとは誰も信じないが、「男性的」価値観の「アウトサイダー」に立った視点は、まだまだ「女性」の経験を欠いた現代の知のありようを見直すためのヒントを与えてくれる。もっとも、ウルフ独特の辛辣なユーモアを交え、グルグルと螺旋を描きながら結論に至る論証スタイルを、本書の魅力ととるか、うるさがるかは、読み手にまかされている。
- 作者: 清水眞砂子
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2008/09/02
- メディア: 単行本
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著者は、1960年前後に男女共学の大学教育を受けた戦後の申し子だ。小中学校の同級生の女性たちの多くが、結婚して食べていくしかなかった時代に、広い世界をのぞく喜びに浸り、高校の英語教師として自活を始めた。「もう、これからは洗濯も炊事もしないですむ」と思わず言った相手との婚約を破棄し、温厚な人柄だが「手足を存分に伸ばして」生きることを共有できなかった男性との離婚も体験した。どこか、宮本百合子の小説『伸子』を彷彿させる著者の青春との別れである。(谷口絹枝)