「深夜読書のススメ」その5/「神様」が教えてくれたこと…高橋源一郎「大人にはわからない日本文学史」
この人の本を読んでなければ、私の人生、少し違った色合いになったかもしれない。それほど作家・高橋源一郎は、私にとって大きな存在だ。最初に目にしたのは朝日新聞の文芸時評あたり。それからデビュー作の「さようなら、ギャングたち」などを読み始め、周りがハルキやエイミに染まっても、私は一途にゲンイチロウ。なぜなら稀代の読書家であり、すぐれた評論家でもある高橋源一郎は、いつも新しい作家や詩人、そして文学を教えてくれたからだ(伊藤隊長を知ったのも「伊藤比呂美は僕の妹なのである」と言う源一郎さん経由)。はたちのころから私を導き続けてくれた、かけがえのない「神様」なのである。
さて、神様は近年、日本近代文学草創期に出掛け、小説の来し方行く末を考えておられる。その果実が小説「日本文学盛衰史」や、読むたびに新しい発見がある評論「ニッポンの小説 百年の孤独」などの大作であり、新刊の「大人にはわからない日本文学史」である。
- 作者: 高橋源一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/02/20
- メディア: 単行本
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神様に出会ったころ、湾岸戦争があった。現実離れしてみえた戦争を前に、私にとってのリアリズムを確かめたくて小説を読んだ。その後も多くの戦争があり、大災害があり、経済危機があり、9・11も経験した。文学を生みだす共同体、社会の在り方の変化は、肌で感じている。小説は「OSを更新するときにきている」と神様はいう。しかし個人の、リアルなことばによって語られる限り、文学は「生きにくさ」を抱える人に寄り添うものであり続けると思う。心に深く響く作品に出会い、「生」を実感する喜び。神様が教えてくれたのは、文学と、それらを生み出し続ける人間への信頼なのかもしれない。(小野由起子)