きぬえの「本は読みよう」第5回
<女性文学>という言葉が、<女流文学>という規定のされ方に異議申し立てをして活字媒体に現れ始めてから、20数年が過ぎる。女性特殊の表現ジャンルであるかのように分類された<女流>の成立は、明治30年代から40年代にかけてとみられている。<王朝女流文学>という用語でいえば、1960年頃から頻出するという調査もある。そう、<女流>は女の書くものはこういう特徴があるはず、という期待に基づいた批評のための用語としてあり、しかも<男流>という対応語をもたないのである。作品評価に性別が持ち込まれるのは、女性が書き手の場合だけということになる。さらに興味深いのは、<女流>の規定が、近代散文としての言文一致体の確立に伴ってなされていることだ。周知のとおり、言文一致体は山手の男性のことばを基盤にして、そのことを性別のないもののようにしてつくり出された文体である。女が書くことにまつわる問題が、近代散文がジェンダー中立を装った問題とどこかでつながっているといえよう。現在もなお、詩と散文において文体へのあくなき挑戦をつづける伊藤比呂美の背後に、そのことが確かにかかわっていると思う。
- 作者: 森崎和江
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1992/06
- メディア: 文庫
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 田中美津
- 出版社/メーカー: パンドラ
- 発売日: 2004/11
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 62回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
- 作者: 干刈あがた
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2000/03
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
<女性文学>という用語も、いつか不要になるときがくるのか。それとも、ことばの世界に新しいスタイルをつくり出す磁場として、肉体の性にかかわりなく発展するだろうか。(谷口絹枝)
にほんブログ村 |
にほんブログ村 |