助手による受講生のための予習メモ(6月) その5

人間失格』を読み解くヒント…「道化の華


道化の華」は、昭和10年に発表された短編小説です。

左翼の非合法運動に疲れた二十一歳の太宰が、行きずりの銀座の女性と江の島の海で投身自殺を図った事件が題材になっています。

はじめは素朴な形式の小説でしたが、ずたずたに切りきざんで新しい形式にした、と太宰は言っています。

ずたずたに切りきざむ・・・主人公の大庭葉蔵(『人間失格』の主人公と同じ名前)のほかに、なんと「僕」という作者―作者の自意識が、物語を中断して直接小説に登場する。

この、「小説(あるいは大庭葉蔵)」と「作者(太宰ではない)」両者を顕在させた「道化の華」が、実は『人間失格』を読み解くうえでの重大なヒントとなっているのです。


晩年 (新潮文庫)

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