助手による受講生のための予習メモ(8月) その1

戯作三昧


作品を愛読する者、批判する者、本屋、画家、弟子入りを願う男…
ある秋の日、馬琴滝沢琑吉は彼らとのやり取りの中で、自作について、あるいは自分という人間について思い悩みます。
そこにつきまとうのは「芸術」という言葉。
孫の他愛もない冗談に心を打たれた馬琴は、その夜、凄まじい勢いで八犬伝の原稿を書き始めます。

   この時彼の王者のような眼に映っていたものは、利害でもなければ、愛憎でもない。
   まして毀誉に煩わされる心などは、とうに眼底を払って消えてしまった。
   あるのは、ただ不可思議な悦びである。あるいは恍惚たる悲壮の感激である。

ところが、そんな馬琴に対して、最後に放たれる妻の言葉は…


芸術は生活の前に屈服したのでしょうか。
あなたはどう読みますか?


初出:「大阪毎日新聞」1917(大正6)年11月