イギリスで読んだ「倫敦塔」1(奥山文幸)
「近代文学研究」第26号(日本文学協会近代部会、2006年4月発行)より著者の了承を得て転載。
二〇〇八年九月二日から、一年間の在外研究の予定で、ロンドン大学SOASに来ている。
ロンドン行きに備え、CD-ROMをハードディスクに収納するソフト「携速xp」を使って、愛用のノートPC(パナソニックCF-W5)に、CD-ROM版新潮文庫シリーズ四枚(「新潮文庫の100冊」・「新潮文庫の絶版100冊」・「明治の文豪」・「大正の文豪」)と、平凡社「世界大百科事典」・小学館「大百科全書」のCD-ROMとを詰め込み、二年前までのすべての「青空文庫」収納作品をひとつのフォルダにまとめ、ebi.Bookを始めとする様々な電子ブック販売サイトからダウンロードした数十冊の電子ブックも入れ込んだ。他にも、いただき物のCD-ROM版「蘭郁二郎 科学幻想奇譚」や二年前に買った「松田修著作集」のPDFもある。小さな書店の文学書コーナーを小さな箱(ノートPC)に格納した案配である。アラジンの魔法のランプとまではいかないまでも、このノートPC一台があれば、一年間、読むものに困ることはないだろう。新しい論文も書けるかもしれない。と、そう思っていた時までは、幸せというか、軽い夢見心地というか、とにかく後に直面する現実の苦労をしらなかった分だけ気楽であった。八月に逗子で行われた近代部会の夏合宿にも参加したが、その時までは、このまま渡英しても漠然と何とかなるだろうという心持ちであったのである。
「2」へ続く
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