イギリスで読んだ「倫敦塔」6(奥山文幸)

近代文学研究」第26号(日本文学協会近代部会、2006年4月発行)より著者の了承を得て転載。

 その後の住居探しの詳細は省く。結局、九月一四日になんとかアパートに入居して、とりあえず気持ちだけは落ち着いてきた。
 少しばかり気力が回復してきたところで、一六日から一八日まで、オックスフォード大学で開催される「小林多喜二記念シンポジウム」に行こうという意欲が出てきた。意欲というと多少正確味を欠く。それまで二週間、ひたすら英語で交渉をしてきた。フラットが決まらないので、B&B延泊の交渉をしたり、もっと安いB&Bに電話で予約を入れたり、不動産屋で打ち合わせをしたり・・・。私は、英語が得意ではない。すでに受験勉強の時に、英語への適正がないことを自覚している。それでも英語ですべてを解決しなければならなかった。「小林多喜二記念シンポジウム」に行けば、久しぶりに日本語で会話ができる。カンタベリーからオックスフォードまでは、ロンドンで乗り換える時間も含めて、高速バスで四〜五時間かかる。日本語恋しさに、オックスフォードのB&Bに、ネットカフェから予約を入れた。
 疲れ切った体にムチを入れて、再び旅支度を始めたとき、漱石がロンドン到着の四日後、一一月一日の昼に、汽車でケンブリッジに行ったことを思い出した。
(二〇〇八年一一月一〇日)

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

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